第52章 千魚の滝登り

そのとき――。

ロビーでは。

野村大世が、すでに一品目を仕上げていた。

野村は皿を工藤達央の前のテーブルへそっと置くと、胸を張って口を開く。

「こちらの一皿――『千魚の滝登り』でございます」

「名前はいいな。素材も相当こだわってるんだろ?」

工藤達央が箸を取らずに言う。

「さすが工藤さん。料理の勘が鋭い」

野村は嬉しそうに頷いた。

「実はこの『千魚の滝登り』、魚の腹から指三本分ほど離れたところ――そこから爪の先ほどの身だけを取ります」

「それを千匹分集めて、ようやく一皿分。しかも全部、新鮮で勢いのある魚でなければならない。そうして初めて、最上の香りが立つんです」

得意げ...

ログインして続きを読む